Little Steps

見聞したものへの所感。あと犬と猫

ハクメイとミコチ/作品レビュー

 緊急事態宣言が出てはや3週間、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 

 外出自粛の緊張や慣れない在宅ワークでのストレスも高まり、「家にいるのに落ち着かない」といった心地になってる方々も多いと思われます。

 

 未曾有のこの事態。家で上手に一人遊びするにも根気が入りますよね。

 自分もそろそろ「ラーメン食いに行きてぇなぁ」などと思い始めた次第です。

 行きませんけど。

 

 さてさて様々な情報がより一層錯綜するこの頃。無軌道な情報は追ってるだけで疲れるものです。特に一個人の手に余るようなものは。

 手洗いうがいをしっかり行って、「良いもの」「楽しいもの」に意識的に触れることが重要かと思われます。 

 

 というわけで、今回は私のレビュー記事作成の練習も兼ね、「ハルタ」で連載中の、樫木祐人(たくと)氏による「生活系小人漫画」、"ハクメイとミコチ"をご紹介したいと思います。

 

https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_EB06000006010000_68/

コミックウォーカー/ハクメイとミコチ 1話試し読み

 右クリック、スマホなら画面押し込みで別タブにて開いてくださると確実かと思われます。

 

 ……著作権の如何が分からないので文字による紹介だけになります。あしからず。

 代わりにうちの犬でも載せておきます←???

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うちのエディ。顔がいい(飼い主の欲目)。

 

○作品情報

 作品名:ハクメイとミコチ

 原作者:樫木祐人

 掲載誌:ハルタ

 単行本:既刊8巻

 対象年齢:全年齢(ただし少し大人向けの情緒あり)

 アニメ化しており、Amazonプライムで全話視聴できます。

 

○作品概要

 全長9cmの小人たちと小動物たちが織りなす小さな、しかし極めて丁寧な生活系小人漫画です

 縮尺を生かしたアイデアに加えて抜群のデザインセンス、そしてそれらだけに依存しない瀟洒な叙述表現による登場人物たちの「心の通い合い」が見所です。

 活発でアウトドア派、明朗快活な「ハクメイ」と、家庭的で芯が強く、しかし好奇心旺盛な「ミコチ」

 この二人の小人の暖かな同棲生活を軸にお話が展開されます。

 

 以下レビュー。

 

☆足元の幸せ

 まずこの作品を紹介した理由ですが、「殺伐とした表現がない」ことです。今の情勢に紹介するにはぴったりかなと。

 その一方で、鼻につくようなあざとい場面もありません。毎日を楽しく、ひたむきに生きる小人や小動物たちの姿が非常に細かく描かれており、読むだけで幸せになれる素晴らしい作品です。

 

 絵が非常に細密かつ見やすく、また小人たちや小動物たちの衣服や装束等の造形にはきちんとした設計と意味があり、下手をすると間延びしてしまう「日常もの」でありながらも程よい「引き締め」を感じることができます。  

  さながら、逸品物の精妙な工芸細工を弄んでいるような感覚があるほどです。

 

 舞台設計も見事で、メインの舞台となるハクメイとミコチが暮らす街「マキナタ」は、中世〜近代ヨーロッパとケルティックが融合したような親しみやすい意匠です。

 また、たまに舞台になるミコチ行きつけの「アラビ」は「積み木」と形容される高層で過密な建築様式が特徴の港町であり、和風で雑然とした独特の風情があります。

 ちなみにこのアラビは私のお気に入りです。

 

 何よりもこれらを描きだす樫木先生の画力は卓越したものがあり、「絵を見ているだけで楽しい作品」でもあります。自然画に関してはそのまま額に入れて飾れるのではないかと思うほど。

 上にリンクを貼った1話の時点ですでに絵柄はほぼ完成されているのですが、現在はさらに磨きがかかっています。

 

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文字だらけなのでまた犬を挿入しておきます。

 

☆魅力的なキャラたちと「きれいな」お話

 さてさて上記までは設定や絵柄に関して言及してきましたが、これに限らず作品の肝はなんと言っても「物語」。このハクメイとミコチは、お話の部分も非常に凝った作りになっています。

 

 基本的に1話完結であり、一回読み通せばあとはどこからでも読み返せるという手軽さも、この作品の魅力の一つです。

 

 主人公のハクメイとミコチは各々修理屋と加工食品の製造と卸しで生計を立てており、それを軸にしたエピソードが中心です。

 そこに、吟遊詩人で少しズボラな「コンジュ」だったり、動物の骨を特殊な技術で動かすアヤしい研究をしている「セン」、また、大工の親方でハクメイの直属の上司であるイタチの「イワシ谷」が絡んでくるわけですが、マキナタやアラビ特有の文化や催しをモチーフにしたものもあり、読み応えは抜群です。

 

 上三人の他にもたくさんの登場人物が出てくるのですが、「クセはあっても嫌味な奴は一人もいない」ことが作中一貫しています。

 つまり、読んでて「うわコイツ嫌いだなぁ…」とならないのが、この作品における一番の美点でもあります。

 

 たとえば、上記のイワシ谷(通称イワシ)。彼は非常に仕事熱心な一方で面倒見がよく、ハクメイが窮地に陥ったときには体を張って救出する漢気溢れる一面を見せてくれます。また、別のエピソードでは極度の出不精が発覚し、ハクメイとミコチに(半ば無理やり)連れられて街で遊んだ後、二人と共に笑顔で飲んだくれるというまた違った表情を見せてくれます。

 

 こんな感じでキャラ一人に対して多角的なアプローチでエピソードが作られており読めば読むほどキャラが魅力を発揮していく作りになっています。

 

☆彼らを繋ぐは食と酒

 さて、ハクミコを語る上で欠かせないのが食事のシーン。主役の一人であるミコチの特技の一つに料理があり、その腕前は「アラビに買い出しに行った際、飲食店を営む人々が監修してもらうために列をなす」ほどの腕前だったりします。

 ハクメイが彼女と同棲しているのも胃袋を掴まれたのがきっかけだとか。

 

 この作品は酒宴でエピソードが締め括られることが多くあり、そこでは数々の垂涎もの料理が振る舞われます。上記で大人向けの情緒ありと書いたのはこのためです。

 

 それらはどれもが非常に美味しそうで、例えば「キノコのオイル煮とミントジュレップ」だったり「屋台向け木苺のジャムと無発酵パン」だったり「サバと冬瓜の揚げ浸し」だったりするわけです。

 ここでポイントなのが、これらはファンタジー世界でのみ再現可能なものではなく、全て実際に「作って食べられる」、または「類似したものが手に入る」リアリティにあります。

 

 この食の描写に関しては、作者の樫木先生が料理を趣味としているところが大きいのでしょう。

 巻末にて「原稿作業の息抜きがてら料理する」とお話ししているほどなので、おそらく漫画と同様、料理に関しても相当な凝り性であられるのだと思われます。漫画も料理も出来るってスゲェなマジで。

 

 また料理以外でも、大工仕事の描写が非常に凝っていたり、湖畔で釣りをするエピソードでは釣りやその道具に関する蘊蓄があったり、最近では煙管(きせる)へのこだわりを描いたエピソード(個人的に大好きな話)が出てきたりなど、節々にフェティシズム、趣味の良さを感じさせる要素が多く見られます。

 

☆総評と追伸

 高い画力に適度な情報量、節々への確かなこだわり、そして心地よい読後感と、誰が読んでも嫌味を感じない、それでいてチープな感触が全くない傑作です。

 掲載誌の都合上、単行本が刊行されるのは毎年一回ですが、待つ価値は十二分にあります。

 

 また、この作品はアニメ化されており、Amazonプライムで全話視聴が可能です。

 このアニメ化は手本のようなクオリティであり、原作をすでに読んでいた自分も初めて見たときは「これ以上理想の形は無い」と強く思ったほどです。原作で独立している2話分のエピソードが巧みに一本にまとめ上げられていたり、やはり強いこだわりと原作愛を持って作られたのだなと確信できます。

 

 サブスクリプション保有している方は是非一度、ご覧になってほしいです。

 

 ながながと描いてしまいましたが、すこし逼迫した今日この頃、枕元に置いておくには最適の作品であると思うので、是非一度ご照覧下さいませ。