DEATH STRANDING/作品レビュー
お久しぶりです。Supersonicです。
案の定緊急事態宣言が延長された昨今、皆様いかがお過ごしでしょうか。
かくいう自分は家でPS4やるのが9割になっております。家でできることって限られますよね。
しかし自粛が続くこの最中、人との繋がりは乏しくなり、それで身も心も疲弊してきたという方も多いかと思われます。
自分は一人でも結構大丈夫な方なんですが、流石に一ヶ月となると厳しいものがあります。
「せっかくゲームが好きなんだから不特定多数の人とオンラインで楽しもう!」みたいなのも、どことなく苦手意識があります。
実際自分はPS4のフレンド申請やメッセージといった全ての対人要素をオフにしてプレイしているという有様です。助けてクレメンス…
というわけで今回は、自分のような「他人と積極的に関わるのは苦手だけど完全なスタンドアローン(オフライン)は嫌だ」という人々の希望に完璧に沿ってくれた稀代の怪作ゲーム、
DEATH STRANDINGをご紹介します。
https://store.playstation.com/ja-jp/product/JP9000-CUSA12612_00-DEATHSTRAND00001
☆作品概要
昨年PS4で発表された小島秀夫監督の最新作。Steamでも配信予定。メタルギアシリーズを手掛けた氏が独立開業した「コジマ・プロダクション」の、記念すべき第一作目です。
あまりにも斬新かつ奇抜なゲームデザインのため発表直後から賛否が真っ二つに割れた作品です。
ここで取り上げておいてなんですが、私も「これ面白いからぜひやってみて!」と軽率に言えないのが本音だったりします。なんなんだこいつ…
というのもこのゲーム、何を隠そう今まであまり類を見ない
「配送ゲー」であり、依頼主から頼まれた荷物を大切に管理しながら道無き道を往くというのが主な内容なのです。
端的にいうと物資を歩いて大切に運ぶゲームであり、戦闘などの要素もありながら、それらはなるべく回避することが推奨されています。以下に詳細を綴っていきますので、購入を判断する際の一助となれば幸いです。
☆世界観とストーリー
舞台は近未来のアメリカ。「デス・ストランディング」という未曾有の大災害により、生者と死者の世界が繋がってしまった世界で物語は繰り広げられます。
「死の座礁」を意味するこの現象は世界秩序を大きく揺るがし、人々はその脅威(後述 )を避けるため、各々シェルターへ籠ることを余儀なくされていました。
インフラがことごとく破壊されたそのアメリカでは「ポーター」と呼ばれる人々が道無き道を歩んで物資の配達を担っており、プレイヤーはそのうちの一人である伝説の配達人、「サム・ポーター」となって、配送がてらアメリカの国家機能を回復させていくことになります。
☆「移動」のゲーム化
さてさて、昨今のゲームジャンルのメジャーの一端である「オープンワールド」。「どこにいくのも自由、何をするのも自由」がウリの作風ですが、このジャンルには一つ弱点があります。
それは「移動」です。マップが広い分、目的地に着くまでアイテムを管理しながら長ーい道のりを行かねばならないのです。
これに属するジャンルのゲームは、例えば乗り物を用意したり、一度訪れた場所であればロードを挟んで即移動する「ファストトラベル」といったシステムを搭載したり、道中にランダムイベントを組み込むなどの工夫がなされています。
裏を返せば、この「移動」パートはそれだけ工夫を要する、ないしは省略することが前提となっている要素なのです。
このデス・ストランディングもまた、オープンワールド系のゲームです。しかし、このゲームが賛否を巻き起こし、また、大いに支持された理由。
それは、「移動」それ自体がゲームとして遊べるように設計されているところにあります。
さてさて、このゲームの具体的なシステムを紹介していきましょう。
このゲームの目的は、様々な人々から配送依頼を受けて荷物を無事配送先まで届けることです。
まずは依頼主から配送依頼を受け、重量を吟味しながらアイテムやサポートギアを見繕います。歩くのに不可欠なブーツや、怪我をした時のための輸血用の血液、そして護身用の武器など。
ゲームを進めると上図のように乗り物も利用可能になりますが、基本的に道無き道を行くので走破性はあまり期待できません。
どちらかというと「梯子」や高い場所から安全に降りるための「ロープパイル」など原始的な器具が有用になります。
これらの道具には全て重量が設定されており、重いとサム(主人公)の負担になって運動性が落ちるので、たくさん持っていけば良いというわけではありません。
準備ができたらいざ出動。道無き道を歩いていきます。
まず驚くべきは操作性。意外にも大きなストレスはなく、すぐに慣れることができます。荷物の積載量で操作感そのものが変わってしまうにもかかわらず、モーションの不自然さや嫌味なプレイフィールはほとんど感じません。
さて次に、このゲーム一番すごいところ。なんとフィールドのテクスチャ全てに「転倒判定」が施されています。
どういう意味かというと、例えば荷物をたくさん背負った状態で走るとバランスが崩れ、最悪転倒して自分や荷物にダメージが入るのですが、それは平坦な草っ原などではあまり起きません。
しかし、地面のちょっとした突起であったり、ゴツゴツした悪路だったりぬかるみで下手に走ったりすると、転倒の危険性が飛躍的に高まるということです。
水深の深い川に考えなしに突っ込むとどエラいことになります。
このあたりの要素を「斬新」とみなすか「面倒」と見なすか。それが、上記で述べた賛否が真っ二つに分かれる部分の正体です。
☆相棒と泥棒とお化け
配送の障壁になるのは悪路だけではありません。ミュールと呼ばれる盗賊集団が各地にテリトリーを作っており、彼らのセンサーに引っかかると一丸となって荷物を奪いにきます。
彼らはもともとサムと同じ「ポーター」だった人々なのですが、
「世界を物流によって繋ぐ使命感と人々から感謝される快感により配達依存症を発症し、そのうちに正気をなくして荷物だけを奪いに来るような暴力性だけが残ってしまった」人々
だったりします。
何を言ってるのかわからないと思いますが、まぁアレですよ。SNSでバズるために手段を選ばなくなった人とかいるじゃないですか。アレと同じ感じだと思います。
過ぎたるはなおってやつですね。
まぁこのミュールは所詮人間。護身用武器やサムの格闘術で比較的簡単にいなすことができます。油断はできませんが。慣れれば下の図のように彼らのトラックを奪取して物資を根こそぎいただく芸当も可能です。
もうどっちが野盗かわかんねぇな。
☆本当に恐ろしい者たち
この世界に降る「雨」。これは「時雨(ときう、タイムフォール)」と呼ばれ、触れた物質の時間を急速に奪い去る=経年劣化させる、特殊かつ非常に危険な性質を持っています。要するに荷物が継続的にダメージを受け続けるのです。地面も濡れるので転倒の危険性も高まります。
ゆえに長期間その時雨が降るエリアに止まるのは非常に悪手であり、迅速に抜け出すことが肝要…ではあるのですが、それは問屋が卸してくれません。
この時雨の本当の恐怖。それはデス・ストランディングにより生者の世界に現出した、この世とあの世の狭間に座礁した者たち、BTの存在です。
時雨の中を移動するさなか、上図のBBと連動した「オドラデク」という便利センサーが作動し、雷の音とおもにおどろおどろしい演出が入ります。
BBは情緒不安定になり、「何か」に怯えるようになります。
その「何か」が、他ならぬこのBTなのです。
時雨の激しく降る場所ではこのBTが宙を漂っており、普段は人型で盲目の状態にあります。
彼らは「この世」のものを「見る」ことはできませんが「聴く」ことはでき、足音はもちろん、呼吸音まで鋭く感知し、対象の位置を特定すると地面に手を這わせて近づいてきます。
しゃがんで足音を消す、ボタンを押し続けて呼吸を止める(スタミナを消費します)ことで彼らの感知を回避できますが、一度捕まると無数の人影がサム羽交い締め、そこから脱出できないと「異形」との戦闘状態になります。
BTの攻略にはサム自身の血を使う必要があるなど、一匹の異形に対応するためには膨大なリソースと時間(荷物がダメージを受け続ける)が必要になります。
ゆえに彼らとの解決は最も優先して回避すべき事柄であり、それはゲーム中でも繰り返し述べられます。もしこの状態で致命的なダメージを受けると…。
それほど危険な存在です。
☆革新的オンラインシステム「カイラル通信」
さてさて上記までの紹介で、「なんだ。やっぱりソロゲーじゃないか」とか、「めっちゃ地味やん」とか「BT怖いホラー無理」という言葉が出てきそうですが、もう一度冒頭の言葉を引っ張ってきます。
「他人と積極的に関わるのは苦手だけど完全なスタンドアローン(オフライン)は嫌だ」
ここからがこのゲームの真髄。他のプレイヤーと間接的に、しかし密に関わることができるオンラインシステム、「カイラル通信」についてご紹介します。
このゲームの各施設には「配送端末」があり、物資の配送がてらQpidという特殊なデバイスをこれに接続して各地のネットワーク機能を回復させていきます。
これを完了すると、物質の転送(量子テレポート)すら可能になるほどの高性能な通信システムが回復します。これがカイラル通信です。
するとなんということでしょう。
他のプレイヤーたちが作ってくれたサポート装置や、乗り物、放棄されたアイテムなどが自分のフィールドに同期され、それらを自由に利用することができるのです。
このゲームのアイテムの一つに「建設装置」というものがあります。これは、ギアを使用するためのバッテリーを回復させる「発電機」や、河川や崖を簡単に渡れるようにするための「橋の土台」を作るための装置です。
例えばプレイヤーA氏が「ここに橋があったらいいかな」と考えてその土台を作るとします。それがプレイヤーB氏とC氏に同期され、両氏が「なるほど!ここに橋があると確かに便利だな!」と賛同し、素材を提供して橋が完成します。
そしてその完成した橋が自分のフィールドに同期されると、来る時はかなりの手間を割いて通過しなければいけなかったルートをあっさり通過できたりするわけです。
こうなると橋を建造してくれた三名に感謝を送りたくなります。そこで、他のプレイヤーが作ったり乗り捨てたりした各々の装置や乗り物には、SNSよろしく「いいね!」を送りまくることができるのです。
無論、自分が作ったものが他のプレイヤーのフィールドに同期され、「いいね!」をもらえることもあります。
バッテリーが切れてギアの性能が枯渇した時に乗り捨てられたバイクがあったりすると安心と感謝のあまり涙が出そうにすらなります。
また、コントローラーのタッチパッドを押すとサムが「俺はサムだ!」とか「俺はここだ!」とか叫び出すのですが、他のプレイヤーが同じエリアで同じように叫んでいると「俺もサムだ!」とか「お前はどこだ⁉︎」と返ってくる小ネタもあります。
なので、一人でプレイしてるはずがいつの間にか他のプレイヤーと協力し、互いにサポートしながら楽しめるようになっているのです。
また、このカイラル通信はストーリーとも非常に深く関わってくる要素でもあり、「作り込んだ設定がそのままゲームシステムとしてきちんと機能している」という、メタ的な秀逸さもあります。
☆総評
あまりにも斬新な切り口と序盤の意図的な不便利さが相まって「受け付けられない」という方々も多い一方、優れたデザインセンスとそれを活かす美麗なグラフィック、何よりもアイデアとシステムの優れた相互親和に惹かれ、多くのファンを獲得するに至った作品です。
ノーマン・リーダスをはじめとする大物俳優が起用された格キャラクターがフィーチャーされがちですが、実際にやってみると新規IPとは思えないほどの丁寧な作りに驚くことでしょう。
一言で言うなれば、「本来『面倒くさい』だけだったゲームの一部を、奇想怪想により見事『遊び』へと仕立て上げてしまった世紀の怪作」です。
少し難点と注意点を記すなら、チュートリアルやUIデザインなどのユーザビリティの吟味が少し甘いこと、「敵を倒すことが目的の設計ではない」ゲームデザイン、めちゃくちゃクセのあるストーリーテリングが、人を選ぶという点です。
しかし少なくとも自分は大いに楽しむことができました。というか今現在、ハードモードで絶賛2周目プレイ中です。
気にいるか気に入らないかは若干「賭け」になりますが、非常に価値のある作品であると、自分は考えています。